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【ジキル&ハイド 感想】最初から最後までひきこまれる傑作ミュージカル

ジキル&ハイドを観てきた。

日本で8回目の上演、前回から5年ぶりの再演となった名作。
ジキル役は初演は鹿賀丈史さん、そこから石丸幹二さんに引き継がれ、今回が初めてのWキャストで石丸幹二さんに加え柿澤勇人さんが演じる。
「石丸ジキル、最後の変身 柿澤ジキル、実験開始」というコピーがかっこいい。

前回から5年あいていることもあり、実は私、観たことがなく、ストーリーも知らず、かの名曲「時が来た」を聞いたことがあった程度。
今回(2023年)の東京公演で観ることがかなった。

以下、感想です。
いつものごとく、ネタバレ含むのでご注意ください


www.youtube.com

ストーリー

https://horipro-stage.jp/stage/jekyllandhyde2023/

19世紀のロンドン。医師であり科学者であるヘンリー・ジキル(石丸幹二柿澤勇人)は、「人間の善と悪の両極端の性格を分離できれば、人間のあらゆる悪を制御し、最終的には消し去ることが出来る」という仮説を立て、研究は作り上げた薬を生きた人間で試してみる段階にまで到達した。ジキルはこの研究に対して病院の理事会で人体実験の承諾を得ようとするが、彼らはこれを神への冒涜だと拒絶する。ジキルの婚約者エマ(Dream Ami/桜井玲香)の父親であるダンヴァース卿(栗原英雄)のとりなしもむなしく、秘書官のストライド(畠中 洋)の思惑もあり、理事会はジキルの要請を却下した。ジキルは親友の弁護士アターソン(石井一孝/上川一哉)に怒りをぶつける。理事会の連中はみんな偽善者だと。

ジキルとアターソンは上流階級の社交場から抜け出し、たどり着いたのは場末の売春宿「どん底」。男どもの歓声の中から、娼婦ルーシー(笹本玲奈/真彩希帆)が現れる。「(私を)自分で試してみれば?」というルーシーの言葉に天啓を受けたジキルは、アターソンの再三にわたる忠告にもかかわらず、薬の調合を始める。赤くきらめく調合液。ジキルはひとり乾杯し、飲み干した。全身を貫く激しい痛み―息も絶え絶え、苦痛に悶えるジキル。腰が曲がり、声はかすれ、まるで獣 — この反応は一体何なのか!そしてとうとう現れたハイド。そして、街では、次々とむごたらしい殺人が発生。謎に満ちた、恐怖の連続殺人事件にロンドン中が凍りつく。犯人は、ハイドなのか。エマや執事プール(佐藤 誓)の心配をよそに研究に没頭していくジキル。果たしてジキルの運命はいかに……。

ひとつの体に宿った二つの魂“ジキル”と“ハイド”の死闘は、破滅へ向けて驚くべき速さで転げ落ちて行く……

「人間の善と悪を分離する」というどう考えてもやばめの実験を実施してしまい、やはりというか悪をコントロールできず落ちていく話。
そこに2人のルーシーとエマという2人の女性との関係が絡み合い、アターソンの友情もむなしくラストを迎える。

キャスト

私が観に行った日のキャストは以下の通り。
斜めで若干見にくいですが…

ホリプロ主催のミュージカルなどでよく見かける写真付きのキャストボード好きなんだよね。

それではキャストごとに感想を。

ヘンリー・ジキル/エドワード・ハイド:柿澤勇人さん

すごくよかった。(語彙力)

ヘンリーとハイドという2つの人格を演じるわけだけど、ほんとうに別人のようであるのに根底に流れている根っこの部分が同じでヘンリーとハイドは同一人物であることはしっくりくるという絶妙なバランスの演技。
ハイドは、暴走したよくわからん悪い人でヘンリーとは他人というわけじゃなくて、あくまでヘンリーが変身した姿なんだと。

彼本人が持っている?もの(若さしかり、身体能力しかり、華やかさしかり)がこの役に全て生きていて、初見でほかの人と見比べたわけではないけれどそれでも、彼だからこそできる最高のジキル/ハイド役だと思った。

ヘンリーの演技も素敵だがハイドの演技が大好き。
危なさが妙な魅力として、視線を奪う。
最初の変身のシーンで床を這いつくばるところの活きの良さ。
「恍惚感あり」とチュッチュしまくったあとに「行動に異常なし」っていうあのユーモア。

そして、若さゆえの視野の狭さ、危うさ、権力(理事会)への反発という風に見えて説得力があった。
逆に石丸幹二さんのジキルってどんな感じなんだろう。タイミングが合わず見ることが叶わなかったのが悲しい。
そして、年齢を重ねた柿澤ジキルも観たい。

ルーシー・ハリス:笹本玲奈さん

笹本玲奈さんはかわいくて大好きな役者さん。
今回初見に当たってあまりこだわりとかはなかったんだけど、笹本玲奈さんが出演する日がいいなとおもってチケットをとったぐらい。

にしても、細い身体のどこから声が出ているんでしょう、本当。
Bring on the Menのような妖艶な歌から、A New Lifeのような(死亡フラグだけど)希望にあふれる歌までバンバン歌のある役でとっても嬉しい。

名実ともに「どん底」にいて生きるためにしがみついていたところに、ジキルとのやり取りを通してNew Lifeを、希望をつかめそうというところがジキルへの恋心と混ざっていて、笑顔がキラキラしていて、その後の展開がつらくなる。
幸せになってほしいとよ入れ込ませるルーシー。

エマ・カルー桜井玲香さん

エマってめちゃめちゃ難しい役。
なんというか意志の強さというか我の強さはあるんだけどあくまで主人公に都合の良い形だし、とにかくただの都合のいい聖母になりがち。
ルーシー(娼婦)の対照としての貴族・婚約者という記号になりかねないというか。

ヘンリー、ヘンリーと引っ張っていってそうな感じとか、押し出していく感じはとても良かったので、あとはどうしてそんなヘンリーヘンリーできるか、背景になる物語をみせられると良いのかな。

もうあとは歌唱力で圧倒するか、なんかなあ。

その他キャストの皆様

アターソン(上川一哉さん)はとにかく"イイ奴"なんだろうなと。かなり俗っぽさもふくむイイ奴。
四季時代の上川さんを存じ上げないんだけど、21年の退団後は北斗の拳に続き2作目で何かとご縁がある。

プール(佐藤誓さん)がでてくると舞台が締まる。セリフはそこまでないけれど、ジキル家との主従に何か物語があるんだろうなあと思わせる。

そして、ハイドに殺される理事会メンバーのやられっぷりが素晴らしく、さすが名俳優の皆様だけなことはある。

音楽のすばらしさ

本作品を語る上で外せないのが、ワイルドホーン氏の音楽の素晴らしさ。

ほぼ予習なしで行った(するタイミングがなかった)のだけど、プロローグからいきなり観客をひきこんでくる力がある。
そしてなんといっても人の気持ちを揺り動かしていくドラマチックさがある。
歌う方はみなさま、ワイルドホーン氏の楽曲はエネルギーを使うとおっしゃる。

ワイルドホーン作品はここ最近わりと続けてみているけれど(北斗の拳、ボニー&クライドからのジキル&ハイド)あーこれこれという安心感すらある。
舞台で聴いたときの音楽が全体的に好きというタイプで、今までこの曲が好きというのはあまりない珍しいタイプの作曲家さんだったのだけれど、ここ最近はずっとルーシーのBring on the Menをループして聞いている。

Bring On the Men (from Jekyll & Hyde: The Gothic Musical Thriller)

Bring On the Men (from Jekyll & Hyde: The Gothic Musical Thriller)

  • リンダ・エダー
  • ポップ
  • ¥255

どこか救いを感じる物語

ミュージカルって話はそんなに気にしていなくて、演出とか音楽とか熱演とかを楽しみに見ていることが多いのだけれど、ジキハイは久しぶりに話もすごく面白いし、そこに演出や演技が光っていると感じた。
(ミュージカルに限らず、バレエとかオペラとか話はさておきなところあるよ!笑)

「悪を分離する薬」そのものは突拍子もないのだけれど、そこからの心の動きが凄く人間で、生きていた。
ひとりの人間の善と悪というのは永遠の課題でもある。
フィクションではさておき、現実世界では「善人」と「悪人」でくっきり2パターンに分かれるわけではないし、配分は個人差あると言えど、誰でも前人の部分と悪人の部分がある。

そういう普遍的な部分に切り込んでいきながら、希望という概念すら知らなかったひと(ルーシー)が希望を持てるようになる物語が絡み合っていく。
結果的にルーシーの希望は凶器に刺されて終わるのだけれども。

ルーシーがハイドの魔の手によって殺され、より強い薬でハイドを押さえ込んだ後、あっさりとエマと結婚式の場面にうつる。
ハイドがあんなことをしてもヘンリーは無罪放免なのかと、もやもやした気持ちを抱えていたら、ハイドがふたたびあらわれて、しまいにヘンリー/ハイドは本人の意思もありアターソンの銃弾に倒れる。

ヘンリー/ハイドやルーシーは殺され、エマは結婚式当日に夫を亡くし、アターソンも自らの手で親友を殺めることになってしまう。
結末を整理してしまえばどう考えてもバッドエンドではあるのだが、わたしにはなぜか悲しい結末には見えなかった。

ヘンリーは人間の善と悪を分離して悪をコントロールできるというどう考えても人間の領域を超えた考えをもとに周りの声もろくに効かず突っ走り、実際にジキルは何人もの人間を殺した。
それでも大事にしていた妻の腕の中で、数少ない理解者の目の前で結末を迎えられたことにどこか救いを感じた。

そしてルーシーも「希望」という概念すら知らずにただただ必死に生きてきたがヘンリーとのやり取りを通じて「希望」を獲得して、前を向いた状態で人生の幕を閉じられたというのも救いに見えた。

いや観劇後に冷静に考えれば視野狭窄で突っ走ってしまったことの報いが死刑はあまりにもそぐわないし、ジキルの罪はちゃんと法廷で裁かれるべきである。
そしてエマからしたらろくに実験のことは相談もされず一人で勝手に突っ走ったあげくあんなことになってふざけんな案件ではあるんだが。
ルーシーだってそのまま幸せに新しい人生を送らせてくれよって感じではあるし、そもそも最初からどん底に落とさないでくれよ。

さいごに

冷静にストーリーだけ追うとツッコミどころなどもあるのだけれど、それでも筋の通った人間臭さの出た面白い話だったし、演出も俳優さんたちの熱演も素晴らしかった。
一言でいえば、総合力が高い。
どうしていままで観たことなかったんだろう?

これまでの経緯を考えると、1シーズンに複数観劇してWキャストの組み合わせの違いで楽しむみたいな作品ではどうやらなさそうだけど、なかなか奥が深いので、再演を繰り返してもらって役者による違いだったり、同じ役者さんでも経年による変化や成長などを楽しみにしている。
今回は5年あいたが、コロナ禍の影響ももちろんあったと思うので、次はイレギュラーな事態は起こらず5年とあけず再演決まるといいなあ。