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【ウィキッド 感想】音楽良し・ストーリー良しの期待を上回る傑作ミュージカル

初めてウィキッドを観た。

劇団四季の「再演希望ナンバーワン」の作品と言われ、劇団創立70周年の節目に満を持して上演決定の知らせがあった時には反響もすこぶる大きかった作品。
日本では札幌公演以来7年ぶり、東京では10年ぶりの再演だという。

観たことがない私はこの反響にもいまいちピンと来ていなかったものの、あまりの評判の良さにとりあえずチケットは確保して、とても期待していた。
そしていざ感激したウィキッドは本当に素晴らしくて、期待を上回る良さ。

以下ネタバレを含みます。

ストーリー

人も動物も同じ言葉を話し、ともに暮らす自由の国・オズ。
しかし動物たちは少しずつ言葉を話せなくなっていた。
緑色の肌と魔法の力を持つエルファバはシズ大学に入学し、
美しく人気者のグリンダとルームメイトに。
見た目も性格もまるで違う二人は激しく反発するが、
お互いの心に触れるうち、次第にかけがえのない存在になっていく。
ある日、オズの支配者である魔法使いから招待状が届いたエルファバは、
グリンダとともに大都会エメラルドシティへ。
そこで重大な秘密を知ったエルファバは、一人で戦うことを決意。
一方のグリンダは、オズの国を救うシンボルに祭り上げられる。
心の内では相手を想い合うエルファバとグリンダ。
しかし、運命は二人を対立の道へと駆り立てていく――。

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もうひとつの「オズの魔法使い」ともいわれる今作。
エルファバとグリンダという2人の女性(魔女)から見たオズの魔法使いとも言って差し支えないだろう。

キャスト

電子のキャスボめちゃ久しぶりだ。
バケモノの子以来の秋で、春も2年ほど行っていない。

エルファバ:三井莉穂さん

まじめで、融通が利かなくて、世の中や自分に対して諦めていて、魔力がめちゃめちゃ強い。
こうして並べてみると全く普通ではないんだけど、でもふとしたところでなぜか普通の女の子っぽくて、とびっきりチャーミングな三井エルファバ。

臆病者の猛獣(ライオン)はむしろ彼女で、グリンダやフィエロとのやり取りが最高にかわいい。

そしてなんといっても歌が強い。
エルサのLet it Goも幕間の劇場を揺らすほどのパワーを持っていたけど、Defying Gravityも圧倒される。泣ける。

グリンダ:真瀬はるかさん

とにかく素晴らしかった真瀬グリンダ。

ALWコンなどで、お美しくて、そして広い音域を豊かに響かせた歌が素晴らしいのは知っていたから期待していた。が、期待を圧倒的に上回る良さ。

歌が上手いとか、せりふ回しが巧いとか素晴らしい技術が土台にあるのだろうけれど、そんな感想も出てこないくらい物語や視線を引っ張る力が凄い。
まっすぐ生きていて、思いもよらぬ方向に話が進み心を痛めて、それでも自分のできるようにまっすぐ生きるグリンダがまぶしい。

音楽のすばらしさ

素敵なミュージカルには素敵な歌がないと始まらない。
本作ももちろん例に漏れず、音楽が素晴らしい。

そして例に漏れず歌う人泣かせだそうだが。笑

ドラマティックでパワフルなのに、登場人物たちの心情をセリフ以上に繊細に表現する。

No One Mourns the Wicked(グッド・ニュース)は、作品のテーマそのものを象徴するような曲である。
世間の評判は必ずしも真実ではなく、善も悪も絶対的なものではないというテーマの中で、ある種の大衆にとっての善悪を見せつけてくる印象的な曲になっている。
真瀬グリンダの何も言えない、悲痛さもにじむ表情もこれまた良かった。

作品を観たことが無くても知っているPopularはグリンダらしさで詰まっている楽曲だが、その後の展開を思うと「あの頃は良かった」な青春ソングで切ない。

これまた作品を観たことが無くても知っているDefying Gravity(自由を求めて)は劇場全てを揺らす、魂そのもののような楽曲。
エルファバ、グリンダそれぞれの覚悟や決意を感じさせる。

また、プリンシパルの歌唱力が光る楽曲もよいが、アンサンブルの力も感じるDancing Through Life(人生を踊りあかせ)、One Short Day(エメラルドシティー)も舞台に引き込む力が強くて素晴らしい。

オズの魔法使いと絡めた物語の妙

なんといってもストーリーが巧い。
善とは何か?悪とは何か?あくまで一面的なとらえ方でしかないことをオズの魔法使いの物語を巧みにひっくり返していくことで、まざまざとみせつけてくる。

オズと魔法使いは児童書らしく夢と魔法あふれる物語だが、そこに妙に現実的なところを持ち込んで、マジカルな設定と現実っぽさを絶妙な塩梅の世界で物語が進んでいく。
魔女はかつて大学に通い、もちろん水をかけられたくらいでは消失しない。笑

オズの魔法使いでは見えなかった物語が目の前で繰り広げられるのだが、それでも確実にオズの魔法使いの物語と整合性は取れている。
オズの魔法使いはやっぱりペテン師だし、ドロシーの家は竜巻で飛ばされてマンチキンを支配していた魔女の家をつぶす。

勇気のないライオンはどうして臆病になったのか?木こりはどうして全身ブリキになったのか?どうしてドロシーの家は東の魔女を下敷きにしたのか?西の魔女はどうしてドロシーの履いた東の魔女の靴に執着したのか?
物語のあらゆる出来事の点がつながっていくおもしろさ。
(もちろん矛盾もあるのだがほとんど気にならない)

点が線になって繋がっていく中で、どうしてグリンダは善い魔女に、エルファバは悪い魔女と"呼ばれるように"なったのかが刻々と描かれている。

シスターフッド

オズの国という現代社会とは別の世界の物語がどうしてこんなにも胸を打つのかというと、魔法の国の物語であると同時に、ふたりの女性の等身大の青春物語であり友情物語でもあるからだ。

わりとしょうもない感じで最初はそりが合わないし、でもひょんなことでふたりの人生が重なって、それなのに運命のいたずらで心はずれていないのに人生はずれてしまう…

グリンダほどPopularであることに全振りはしていないし、エルファバほど世間から疎まれ、認められたい気持ちをくすぶらせてはいない。
しかし私の中にも、大切な友人たちの中にも、グリンダっぽさもエルファバっぽさもあるから、このふたりが友情を深め、そしてそれぞれの人生を歩んでいく私たちの物語なのだと思う。

こんなに等身大のふたりが、過酷すぎる運命に翻弄され、今後は人生が交わることがないのはあまりにも皮肉ではあるが。

さいごに

評判の良さにとっても期待していた作品だけど、それを上回るぐらいパワーを持った作品だった。
東京では結局1公演しか見られなかったが、今から大阪公演がすごく楽しみだ。