けっこう早くにチケットを抑えて楽しみにしていたミュージカル「アナスタシア」
アニメーション映画「アナスタシア」は、ちょっとまえまでディズニーぽいけどディズニーじゃない!でディズニーファン界隈では有名だった映画。
(今となっては20世紀フォックスはディズニー傘下で、アナスタシアはディズニープラスでも観られるのだが)
私も1回だけかなり前に観て、ミュージカルシーンの良さがかなり印象的だった。
そんなミュージカルアニメーション映画を舞台化したミュージカルが本作である。
日本には2020年に初演し、その直後に宝塚でも上演する予定というニュースが出て話題になったが、初演はコロナウイルスが猛威を振るいたった14回しか公演できなかった。
その後、宝塚版は無事観ることが出来たのだが、宝塚ナイズドされてない、おそらくオリジナルに近いと思われる梅芸版は今年初めて観ることが出来た。
ここから先は、しっかりネタバレ含むのでご注意ください
ストーリー
舞台は20 世紀初頭、帝政末期のロシア、サンクトペテルブルク。ロシア帝国皇帝ニコライ2 世の末娘として生まれたアナスタシアは、パリへ移り住み離ればなれになってしまった祖母マリア皇太后から貰ったオルゴールを宝物に、家族と幸せに暮らしていたが、突如ボリシェビキ(後のソ連共産党)の攻撃を受け、一家は滅びてしまう。しかし、街中ではアナスタシアの生存を噂する声がまことしやかに広がっていた。パリに住むマリア皇太后は、アナスタシアを探すため多額の賞金を懸ける。それを聞いた二人の詐欺師ディミトリとヴラドは、アナスタシアによく似た少女アーニャを利用し、賞金をだまし取ろうと企て、アーニャと三人でマリア皇太后の住むパリへと旅立つ。記憶喪失だったアーニャは次第に昔の記憶を取り戻してゆく…
同じ頃、ロシア政府はボリシェビキの将官グレブにアナスタシアの暗殺命令を下す。マリア皇太后に仕えるリリーの協力を得て、ついにアーニャはマリア皇太后と会う機会を得るが、グレブがアーニャを見つけ出し…。
ストーリー | ミュージカル「アナスタシア」 <オフィシャルHP>
実際まことしやかにささやかれた「アナスタシア伝説」をベースにした物語で、多くはフィクションだがほんの一部は史実も混ざっている。
記憶喪失の少女アーニャが自分を見つけていく物語。
そしてもともとは詐欺をするつもりだったディミトリの心境がどう変わっていくのか。
キャスト
私が観た回のキャストはこのとおり。
アーニャ:木下晴香、ディミトリ:海宝直人で観たかった。
メインキャストについて簡単だけれど感想を。 キャストの感想と役への想いごっちゃでいきます。。。
アーニャ/木下晴香さん
木下晴香さんは実写版アラジンのジャスミンの吹き替えで初めて知り、その後ミュージカルで大活躍と聞いていたもののいままでその演技を観たことがなかった。
高貴で楚々としたイメージの彼女ならアーニャ役はピッタリだと思っていたが、期待以上のアーニャ像を魅せてくれた。
彼女の気品あふれる姿は「本人は覚えてないけれど、実は皇女様」という説得力が凄い。
2幕のドレス姿のハッとするような美しさはもちろん、1幕の練習中もふとした角度の姿が美しくて、特別なお人だという印象が凄い。
そこにのっかる歌も、さすがの歌唱力で絶品だった。
ソロも素晴らしいけれど、デュエットで重なる声も美しい。
ディミトリ/海宝直人さん
期待通りの王道ディミトリを魅せてくれた海宝直人さん。
なんといっても歌唱力で聴かせるナンバーが絶品。
特にMy Petersburgは会場を完全に飲み込み、ショーストップを引き起こしていた。
後半になっていくにつれて演技にググっとギアが入って、アーニャの側にいたいという想いと、彼女の夢を後押ししたいという気持ちで揺れているところや、皇太后に向かってまくしたてるところはまさに王子様。かっこよかった。
グレブ/堂珍嘉邦さん
グレブは原作映画にはいないオリジナルキャラかつ史実にもいない難役。
初演のラミン・カリムルーにやってほしいキャラを詰め込んだみたいな要素すらある役だと思う。
ほら、女の子と使命で揺れて苦悩の絶唱するところ、観たいじゃない。
アーニャへの想いは恋なんだなと思わせるような役作りだった。
最初はただの掃除婦に過ぎない彼女にどこで恋に落ちたのかはよくわからないけれど、好きなもんは好きなんだ、だから守りたいんだという説得力があった。
ヴラド/石川禅さん
今回は意識的に石川禅さんが出ている回を選んだわけではないが、それでも観る作品に出ていると嬉しいのが石川禅さん。
歌はやっぱり素晴らしいし、なんといってもチャーミングで愛しくて。
そして対アーニャ、対ディマ、対リリーどれも関係性にあたたかさがあるのが素敵。
歌も演技も絶品で、舞台を前に動かす力の強い俳優さんだなと改めて認識した。
本編とは話がそれるけれど、パンフレットのお稽古場写真のところに乗っていたWヴラドのツーショットがあまりにも最高すぎるのでみんな見て欲しい。
なんといっても曲と歌
サンクトペテルブルクとパリを舞台にしながらもやっぱりファンタジーの世界。
そんな魅力的な世界を彩っているのが名曲の数々。
映画でも印象的だったOnce Upon a Decemberや、Journey to the Pastはもちろん、
My PetersburgやIn a Crowd of Thousandといった追加曲も全て魅力的。
木下×海宝×石川という稀代の歌い手がそろったことで、とにかく歌が素晴らしかった。
どんどん歌で物語が動いていく。
そしてアンサンブルもしっかりレベルが高くて、A Rumor in St. Petersburgや
Paris Holds the Key(To Your Heart)といった群像劇のシーンも華やかで音楽の魅力が光るシーンに。
全編通して楽曲が良く、そして表現する役者の皆様やオケの皆様も素晴らしく、最初から最後までずっと音楽の良さを楽しめる作品だった。
鮮やかな舞台(舞台演出・衣装)
ファンタジーな世界を視覚的に支えているのが、映像を駆使したアーチ状のセット
サンクトペテルブルクからパリまで移動の多い作品だが、映像とセットの回転を駆使することであっという間に舞台が切り替わる。
舞台の背景で映像を使うのはあまり私の好みではないのだが、鮮やかさや動き、美しさが舞台装置とうまく融けあい単独の足し算以上の効果をもたらしていて大満足。
「楽だから」「場面転換が簡単だから」ではなく、映像の特性を活かしつつ美しいものを作り上げる、これまでにないものを届けるという想いがあれば映像も舞台というリアルを強力に支えるパートナーになり得るのか。
そして豪華な衣装たち。
真ん中から端っこまですべての衣装が素晴らしい。
なかでもアーニャがバレエ観劇に着用する青いドレスはハッと息をのむような美しさだし(あと晴香アーニャに似合いすぎている)
最後の赤いドレスもハッピープリンセスストーリーを彩るにふさわしいゴージャスさとかわいらしさを兼ね備えている。
ロマノフ一家のお衣装たちも、皇帝一家らしい荘厳さを兼ね備えながら、どこかはかなさを持ち合わせているのが、ストーリーを語っていて素敵。
さいごに
主人公だけでなく周りも含めてみんなが自分と向き合い前に進んでいく、ファンタジーだけど普遍的な部分もある物語。
視覚的にも聴覚的にも極上で、観終わった後に「ミュージカルを観た!」という充実感を感じる素敵な作品だった。