ここ最近、2つのゴッホ展に足を運んだ。 上野公園内の東京都美術館で開催されている『ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢』と、 神戸市立博物館で開催されている『阪神・淡路大震災30年 大ゴッホ展 夜のカフェテラス』。
有名な画家の作品は来日する機会が比較的多く、ゴッホも例外ではないが、ここまで大規模に関東と関西で同時期にゴッホ展が開催されるのは珍しいと思う。
実は、ゴッホについてこれまでほとんど何も知らなかった。 《星月夜》や《ひまわり》といった超有名作品の画像は見たことがある(《ひまわり》はSOMPO美術館所蔵のものを実際に鑑賞済み)ものの、画業や生涯については予備知識ゼロ。 どこの国の出身で、どこで制作していたのかすら知らなかった。
そんな状態で訪れたのが『ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢』。 家族の視点から作品の歩みを辿る展示構成で、そこで初めてゴッホの生涯や制作の変化を理解した。
ちょうどその知識が頭に残っていた頃、日本に《夜のカフェテラス》が来ているというニュースを耳にした。 「あの作品が今、日本にあるなら見逃す理由はないよね?」と完全にミーハー心が刺激され、タイミングよく関西に行く予定があったので、その勢いのまま神戸の《大ゴッホ展》へ。
結果として2つの展覧会を続けて見ることになり、ゴッホの作品が人生や環境によってどのように変化していったのか、以前より少しだけ立体的に掴めた気がしている。
ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢
展示会概要
フィンセント・ファン・ゴッホ(1853-1890)の作品は、今日までどのように伝えられてきたのでしょうか。本展は、ファン・ゴッホ家が受け継いできたファミリー・コレクションに焦点を当てます。 フィンセントの画業を支え、その大部分の作品を保管していた弟テオ。テオの死後、その妻ヨーは膨大なコレクションを管理し、義兄の作品を世に出すことに人生を捧げます。テオとヨーの息子フィンセント・ウィレムは、コレクションを散逸させないためにフィンセント・ファン・ゴッホ財団を設立し、美術館の開館に尽力します。人びとの心を癒す絵画に憧れ、100年後の人びとにも自らの絵が見られることを期待した画家の夢も、数々の作品とともにこうして今日まで引き継がれてきました。 本展をとおして、家族の受け継いできた画家の作品と夢を、さらに後世へと伝えてゆきます。
ファミリー・コレクションに焦点を当て、どのように今日まで伝わってきたのかをたどっていく。
展示は以下の日程で巡回している。
2025年7月5日(土)~8月31日(日)に大阪市立美術館で開催され、
2025年9月12日(金)~12月21日(日)は東京都美術館で開催中だ。
そして2026年1月3日(土)~3月23日(月)は愛知県美術館での開催を予定している。
感想

私は、ゴッホのファーストネームがフィンセントであることすら知らないくらいの状態で展覧会に向かった。
展示では、彼がオランダで生まれ、27歳という遅めのタイミングで画家を志したこと、そしてその後の制作と拠点の移動を軸に作品が並んでいた。
- オランダ:写実寄りで色彩の落ち着いた時期
- パリ:印象派や同時代の画家と接点が生まれ、色が明るく変化
- アルル(南仏):独特の鮮やかさが一気に開花
- サン=レミ(療養所):精神的な不安定さと創作の高まりが同時に存在
- オーヴェル=シュル=オワーズ:晩年、そして死へ
こうした変遷を作品と一緒に追えるので、知識がなくても理解しやすかった。
特に、色彩の変化が住む場所や出会いによって加速していくことが体感で理解できたのが良かった。 オランダ時代の暗めの色調は、作品単体だと地味で私にはそこまでおもしろいとは感じられなかったが、後年の作品をあとから観賞することで進化の道のりとして大事なパートだと感じられる。
そして、この展覧会のタイトルにある「家族」に焦点を当てたパートも印象的だった。
弟のテオ・ファン・ゴッホは生涯にわたり兄を経済的にも精神的にも支え続け、その妻のヨハンナ(ヨー)は、作品を適切な価値で世に出しつつ、散逸しないよう管理し、美術館設立につなげた人物だ。
テオと結婚するまでに美術に縁がなかったとされるヨーが、何を売り、何を残すべきかを判断したことが奇跡だと思う。
そうして手元に残されたファミリーコレクションがファン・ゴッホ美術館のコレクションになり、そして来日している。
《星月夜》や《ひまわり》といった超有名作品ではない佳作がたくさんあり、落ち着いてゆったりたくさんの作品を楽しめたように思う。
なお、最後に設置されていたイマーシブシアター映像は個人的にはあまり刺さらず、
ミュージアムショップに今回展示されていない《ひまわり》グッズが大量に陳列されていたことにはちょっと笑ってしまった。
商魂たくましいよ。
大ゴッホ展 夜のカフェテラス
クレラー=ミュラー美術館所蔵の作品を中心に構成された展覧会。 クレラー=ミュラー美術館は、オランダ・ヘルダーラント州のデ・ホーヘ・フェルウェ国立公園内にある美術館であり、世界屈指のファン・ゴッホ作品が収蔵・展示されている。
オランダ南部の小さな村で生まれたファン・ゴッホ。画商の仕事もキリスト教の伝道師の仕事もうまくいかず、「絵の道しかない」と決心したのは27歳。弟テオの援助を受けながら、何を描くかを考え抜き、絵の基礎を築いていきました。彼は農民や炭坑夫と暮らしをともにし、人間の苦悩に寄り添いながら、何よりも自然を愛しました。 展覧会第1期で紹介する画業の前半期は、ファン・ゴッホとその作品を知る上で欠かせない原点です。1期となる「大ゴッホ展 夜のカフェテラス」では、初期オランダ時代からフランス・パリで色彩に目覚め、さらなる光を求めてアルルに向かい、《夜のカフェテラス》を描くに至るまでをさまざまな作品を通して紹介します。
第1期は、2025年9月20日(土) ~ 2026年2月1日(日)に 神戸市立博物館で開催中。
2026年2月21日(土) ~ 2026年5月10日(日)に福島県立美術館、
2026年5月29日(金) ~ 2026年8月12日(水)に上野の森美術館で開催が予定されている。
第2期が、70年ぶりの来日となるアルルの跳ね橋をメインに据えて、2027年以降に開催が予定されている。
感想

「家族がつないだ画家の夢」展の記憶も新しいまま、日本にかの有名な《夜のカフェテラス》が来ていると聞いて、行くっきゃないなと思った。 来年の東京展まで待ってももちろんよかったのだが、鉄は熱いうちに打て!精神と、東京展のほうが混んでゆっくり見られなさそうだからという下心で、関西滞在ついでに訪れた。
土日および1月以降の平日は予約優先制と案内が出ているものの、私が行った日は休日だったが特に予約の確認はしておらず、人の頭越しでないと作品が楽しめないくらい混んでいた。 予約していた人たち、不憫すぎ。
という運営へのツッコミはさておき、こちらはファン・ゴッホ美術館に次いで世界で2番目にゴッホコレクションが充実しているという、クレラー=ミュラー美術館所蔵作品が大量来日している。
展示会の構成は以下の通り
Chapter 1 バルビゾン派、ハーグ派:ゴッホが憧れたミレーの作品など Chapter 2 オランダ時代:かなり作品数が多め Chapter 3 パリの画家とファン・ゴッホ:ルノワール、モネなど1860年代から90年代のパリの画家たちの作品 Chapter 4 パリ時代:パリの前衛的な表現から触発されながらもオリジナリティも発揮する Chapter 5 アルル時代:《夜のカフェテラス》と《夕暮時の刈り込まれた柳》の2作品
Chapterの番号は時代順に振っているもが、実際の展示の順路の順番はアルル時代とパリ時代が入れ替わっていて、順路通りに見ようとすると先にChapter 5がきて、そのごChapter4に戻る構成となっている。
スペースの都合だろうか。
なお、サン=レミ時代以降は今回の対象ではない。
この展示会はとにかく《夜のカフェテラス》のインパクトが大きかった。 夜の空が実際よりも鮮やかな青で描かれていて美しく、そこにカフェの照明の黄色が美しく映える。照明がぼんやりと広がっていく様も見事だ。 写真や評価で知っていた以上に、実物の色彩は圧倒的で、名画と呼ばれる理由を体感できた。
一方で、《夜のカフェテラス》のインパクトや、列に並んでいた時間によって、同時代のパリの画家の作品とゴッホのパリ時代の展示が分断されてしまうのが残念…。 結果、オランダ時代とパリ時代が連続したときに感じられる変化が薄れ、オランダ時代が退屈に感じてしまったかも。
評価されていて有名なのはアルル時代以降でこれらの時代の作品も観たかったのだが、第2期が開催されるまで1年以上待たなくてはならず待ち遠しい。
ふたつの展示会を経て
2つの作品展を短い期間で訪れたことによって、ゴッホについて何も知らなかったにもかかわらず、その生涯や画業の変遷の知識を少しとはいえ得て、そして超有名作品を生で見られるという貴重な体験を一気に楽しめて良かった。
家族がつないだ画家の夢の公式情報はこちらから↓