虹はね、

なんでも置き場

ミュージカル ウェイトレス リアリティと夢をパイにのせて

ウェイトレス日本初演観に行ってきた。

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日生劇場 ミュージカル『ウェイトレス』

コロナ禍で世界中がしっちゃかめっちゃかなこのご時世に無事に開幕を迎えることができ、国内外問わずいろんなメディアで取り上げられたこの作品を観に行くことができて嬉しい。

せっかく行けたので感想でも。

思いっきりネタバレを含みますのでご注意ください。

どんなミュージカル?

ウェイトレスは、2007年の映画「ウェイトレス~おいしい人生のつくりかた」をベースにしたブロードウェイのミュージカル。

ブロードウェイで大人気を博し、全米ツアー公演やウェストエンド公演も大盛況だった今作が、高畑充希主演で日本初演で、日生劇場博多座梅田芸術劇場御園座で上演される。

あらすじはこんなかんじ。

アメリカ南部の田舎町。そこにとびきりのパイを出すと評判のレストランがある。ウェイトレスのジェナ(高畑充希)はダメ男の夫・アール(渡辺大輔)の束縛で辛い生活から現実逃避するかのように、自分の頭にひらめくパイを作り続ける。そんなある日、アールの子を妊娠していることに気付く。訪れた産婦人科の若いポマター医師(宮野真守)に、「妊娠は嬉しくないけど産む」と正直に身の上を打ち明ける。

ジェナのウェイトレス仲間も、それぞれ自分のことで悩む日々。ドーン(宮澤エマ)は、オタクの自分を受け入れてくれる男性がこの世にいるのかと恋愛に臆病だが、出会いを求め投稿したプロフィール欄にオギー(おばたのお兄さん)からメッセージが届き困惑する。また、姉御肌のベッキー(Wキャスト:LiLiCo/浦嶋りんこ)は、料理人のカル(勝矢)と毎日のように言い争っている。ベッキーは病気の夫の看病と仕事を両立しているのだった。

ある日、店のオーナーのジョー(佐藤正宏)が、ジェナに「全国パイづくりコンテストに出場し、賞金を稼いだらどうか?」と提案する。その言葉をきっかけに、ジェナは優勝して賞金を獲得できたら、アールと別れようと強く決心する。

診察を受け、身の上話を語るうちに、ポマター医師に惹かれはじめるジェナ。ポマター医師もまた、ジェナへの想いを抑えられず、二人はお互いが既婚者と知りながら、一線を越えてしまうのだった。

そして、ジェナの出産の日は、刻一刻と近づいていく……。
日生劇場 ミュージカル『ウェイトレス』

キャラクターが生きている

観て一番思ったのは、何よりもキャラクターがしっかり生きているところが魅力だなと。

DV夫にめげない明るい主人公が、妊娠を機にDV夫から逃げようと決心し、ちょっとオタクな友人と頼もしい姉後肌の友人に支えられながら、得意のパイづくりを活かして、パイづくり大会に優勝し、第二の人生を始める…
そんな分かりやすいストーリーやキャラクターに落とし込むわけでなく、もっと人間臭いキャラクターが動いていた。

主人公・ジェナはパイづくりという趣味であり仕事であり自己表現の手段を持っているけれど、金銭的に弱いところもあって、あきらめも抱えている。

子どもを身ごもっても、喜びではなくて不安とかもやもやした気持ちでいっぱい。
中高生で妊娠とかならともかく、アラサーで結婚していて夫の子を妊娠したわけなのに単純に喜べない…。
妊娠って喜ばしい出来事であるんだけど、同時に不満もつきまとうところには目を背けられがちで、そこをきちんと向き合ってるのがある意味で誠実。

そして、DV夫に苦しむけれど、別に次に王子様が現れるわけでもなく、男の趣味はちょっと悪いまま(?)
ポマター先生演じた宮野真守さんのいい人っぽい感じでコーティングされてたけどふつうにクズだよね笑
ジェナと別れたところで絶対また不倫すると思う。

そしてついに気持ちを固めてパイづくり大会に出るためにへそくりをためるも、結局夫に見つかってしまって大会には行けなくなってしまうし…。

"正しい"主人公なら、「ただのウェイトレスだから…経済的に…」とかうじうじ言ってないで戦うし、そもそも嫌いな男の子供なんて妊娠しないし、いくら夫がくそだからって不倫なんてせずに別れてから次の男に行くし、パイづくり大会で優勝してハッピーエンドを迎えられるし…

でも、人間そんなに正しくいられないよねというところが詰まっていて、間違っているとわかっててもそうするしかないと思(いこんでしま)う時ってあるよね…ってなんか同調してしまう力があった。
ジェナが経済的に恵まれてないし牙を抜かれてるのもジェナのせいじゃないしな…。もっと社会とか慣習とかいろいろあるじゃない。

ジェナは主人公であると同時に私でもあるのかなって思えるぐらいキャラクターとして生きていた。
私は不倫はしないしそもそも結婚もしてないけれど。

そしてジェナ以外も生きた人間たちを感じられた。
ベッキーが不倫するけど別れない理由が愛しているから、ってさらっとしてるけどなかなかいろいろ含まれてるなって。

キャストが輝いていた

そんな生きていた物語を見事に演じ切っていたキャストの皆さんが素晴らしかった。

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御園紬ちゃん/ルル役

最後にちょこっと出てきたルルちゃん役

かわいくってかわいくってかしこくって愛嬌たっぷりでカーテンコールのアイドルだった。

おばたのお兄さん/オギー役

ウェイトレス観た人みんなおばたのお兄さんってツイートしてるけど、まあこれ見ちゃったらツイートしたくなっちゃうのも当然だなと思わせるぐらい素晴らしかったおばたのお兄さん

もともと「まーきのっ」くらいしか知らなかったけれど、スターでありエンターテイナーだった。
コメディな感じだけでなく、身体能力も歌も演技も素晴らしかった。

今後もいろんな舞台で見てみたい。

渡辺大輔さん/アール役

ほんとうにアールがリアルに憎たらしく恐ろしく本当に嫌なDVモラハラ夫。
いて欲しくないけどいそうな嫌な男。

演技力がエグイ…。

だがしかし歌がうまい。ナンバー1曲しかないのが惜しいぐらい。

LiLiCoさん/ベッキー

LiLiCoさんがもともと持っている本来の良さとベッキーという役が良く絡み合い素敵なベッキーだったなぁ。

この作品はかなり下ネタもあるんだけど、LiLiCoさんだからこそカラッとしているところが良かった。

LiLiCoさんは歌手として活動していたこともあって、歌い方がミュージカル女優的というよりは、歌手の歌い方に近いのが、ゴリゴリの舞台畑の高畑充希さんや宮澤エマさんと対照的で、いいアクセントになっていたと思う。

宮澤エマさん/ドーン役

宮澤エマさんは、とにかく"巧い"なあ~~~と。

歌が上手いのももちろんそうなんだけど、プログラムの対談でLiLiCoさんが言っていたように、「一見"変な人"のそうじゃない部分を、お客さんにちゃんと伝えられる」役者さん。

宮野真守さん/ポマター先生役

ポマター先生は冷静に考えるとふつうにクズだけれども笑
そういうところを独特の抜け感でさっぱり笑える感じで演じているのがすごく良かった。

二枚目と三枚目な空気をどっちも持ち、クズなんだけどいい人っぽい感じにするという超難役がぴったりと宮野さんにはまっていた。

高畑充希さん/ジェナ役

高畑充希さんのジェナは、ポマター先生と不倫するあたり(Bad Idea)からぐぐぐっとギアがかかって、そのまま駆け抜けていくようなジェナだった。
出産~アールを拒絶するところはもうなんか降臨していた。

すごい余談なんだけど、プログラムのビジュアルが最強すぎる。
そしてこのプログラムなんかいい匂いするのよね!

夢と現実のバランス

さきほど、キャラクターがしっかり生きているところが魅力といったけれど、それとは対照的にほんとに主人公に都合がいいなあ~~~という部分もある。
赤ちゃんが欲しくない!と叫んでいたのに産まれた途端、この子のためなら何でもできると降りてくるところは、母になるってそういうところがあるのかもしれないと目をつぶるにしても(出産経験がないので私にはわからない)、
夫があんなにすっぱり別れてくれるとは思わないし(あの手のDVモラハラ男は基本的に所有欲がやばいので裁判沙汰になっても全然おかしくないでしょ)
元オーナーがお店を譲ってくれるとかなんじゃそりゃー!って感じだし。

ただ、そういう現実的な部分と夢の世界の部分が共存しているところが、むしろこの作品の魅力だと思う。
あんまり現実ばっかり見せられても気が滅入っちゃうし…。
例えば、夫との泥沼離婚裁判とか、金銭的に苦しくて子どもを養うために風俗で働き始める主人公とか見たくないもん。

現実的な部分と都合のいい夢のバランスもそうだけど、とにかくこの作品は全体的にバランス感覚が私の好み。

基本的にはコメディなんだけど扱ってる題材は意外とシリアスだったり、下ネタ多めなのにポップに仕上がっている感じとか。
かなり露骨なラブシーンでもなんかポップでふんわりみられるのすごくない!?

さいごに

楽しいと同時に、諦念を持っていた主人公が前に進むようになる過程を見届けて、自分のことを考えたり、それでも前を向いて頑張っていこうって思えるような素敵な鑑賞体験だった。

舞台上に演奏バンドの皆さんが馴染んでる演出?も素敵だった。

そして、なによりも登場人物の心情にぴったりと寄り添った魅力的な音楽(名作ミュージカルの必要条件!)が素晴らしかった。

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